子宮筋腫内視鏡手術 腹腔鏡

切らない筋腫治療センターは内視鏡手術を専門的に行ない,開腹手術はしていません.子宮筋腫の手術治療には開腹手術と内視鏡手術がありますが,ここでは内視鏡手術のうち、腹腔鏡手術について解説します。
腹腔鏡手術では「臓器に対して切ったり,縫ったり」するという点では,開腹手術とまったく同じことをします.開腹手術と腹腔鏡手術の違いは,おなかの傷の大きさです.開腹手術は腹部を10~20cm程度切りますが,腹腔鏡手術は0.5から1.5cm程度3~4か所の傷ですみます.
腹腔鏡手術では,小さな傷から入れたカメラ(腹腔鏡)を使い、外部のテレビモニターに腹腔内(おなかのなか)の状況を映しだし,これを見ながら専用の手術器具を用いて手術します.
おなかの傷が小さければ,「痛みが軽く傷がめだたない.回復が早く退院と社会復帰が早い.術後の腹腔内臓器癒着が少ない」などのたくさんの利点があります.
ただし,「実際の臓器に直接手で触れて,切ったり縫ったりできる開腹手術」に比べ,「モニター画面で臓器を見て,体の外から細長い器具を使って、切ったり縫ったりしなければならない腹腔鏡手術」は、高度で特殊な技術が必要になります.
このため,手術が可能かどうかは,「腫瘍の大きさ・数・位置・癒着の有無」など患者さん側の条件と,医師の技術との兼ね合いで決まってきます。


腹腔鏡手術器具写真子宮筋腫の腹腔鏡手術


腹腔鏡下子宮筋腫摘出術

腹腔鏡の映像を見ながら手術し,筋腫を取り子宮は残します.おなかをほとんど切らないので,痛みと癒着が少ないです.
筋層内筋腫では,子宮筋層を切り開き,筋腫をはがし取った後に子宮筋層を縫合して閉じます。筋腫は小さくまたは細く切って,腹壁の小さな傷から体外へ取り出しますが,腹腔内で子宮に対して行なう操作は,開腹での筋腫摘出術(核出術)とかわりません。
漿膜下筋腫では筋層内筋腫よりも筋層切開は少なくて済みますが,粘膜下筋腫では筋腫が子宮腔内にあるため帝王切開のように子宮の中までの深い筋層切開が必要になります。このため,粘膜下筋腫に対しては筋層を切らない子宮鏡手術が優れているといえます。

おへそを超える子宮では,腹腔鏡手術は子宮の一部しか見えないため物理的に困難です.下のMRIの筋腫は,おへそを超えていますが,偽閉経療法で筋腫の縮小をはかった後に,腹腔鏡手術により取ることができたラッキーなケースでした.筋腫の重量は1022gありましたが,①子宮の前側にある筋腫,②細い茎で子宮本体とつながっていた漿膜下筋腫,③おなかの皮下脂肪が少ない,という手術にとっての好条件がそろっていたため、術中出血も少なく比較的短時間の手術ですみました。

腹腔鏡手術で摘出できた巨大子宮筋腫のMRI画像

上の写真は、胴体下半身の縦方向の断面で、脊椎とおへそがわかるので体の真ん中で縦割りにしたイメージです。子宮本体は巨大筋腫の後にあります。
下の動画は、MRIの画像を連続的に再生したものです。子宮筋腫の大きさと子宮本体との三次元的関係が理解できます。

 

下の写真は、実際の腹腔鏡の映像です。
巨大な子宮筋腫を子宮本体から切り離し、筋腫がつながっていた子宮本体の切断面を縫い合わせます。
(下の写真は、クリックすると大きくなります)

 

腹腔鏡下子宮筋腫摘出術の傷跡の写真

 

①腹腔鏡のカメラを入れるため,へそを縦に1.5cm切っています。②③は手術器具を入れるため,約5mm切っています。
いずれの傷も,3週間で痛みはなく,傷跡はほとんど目立ちません。

子宮全摘術ではすべての筋腫を完全摘出したことになりますが,子宮筋腫の発生が単発(1個だけ)であることは例外的で通常は複数発生し,微小な筋腫は発見できないので,筋腫摘出術では基本的に残存筋腫が存在します。
手術に先立ちMRIで筋腫の大きさ・位置・性状を観察し手術計画を立てますが,かならずしも認識できたすべての筋腫の摘出を目標としているわけではありません.取り残された筋腫は,術後も増大する可能性が高いわけですから,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」ことも目標の一つですが,現実には多発例では「すべての筋腫が取りきれる」ということはありえません.
たくさんの筋腫をとることは,基本的には「健常筋層・内膜・卵管の損傷・機能低下,筋層瘢痕の増加による筋層脆弱化,縫合範囲の増加による術中出血と術後癒着の増加」の原因になります.筋層内筋腫の筋腫摘出術の目的の一つは妊孕能の改善(妊娠できるようにすること)ですが,この手術では筋層切開と縫合修復が必要になります.
多発例や巨大例では,妊娠可能な子宮に形成することが困難な場合もあり,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」という原則にこだわりすぎると,逆に妊孕能を損ねることもあります.また,多発例や巨大例では縫合を重ねても止血困難な場合もあり,「できるだけ多くの筋腫を取り,できるだけ取り残さない」という原則にこだわりすぎると,長時間手術や大量出血のリスクが高まり,低侵襲という腹腔鏡手術のメリットが損なわれる事態も生じます.
そこで,実際には,術前にそれぞれの筋腫について,「症状への影響度,摘出難易度,摘出による健常組織への侵襲」を評価・予測し摘出の優先順位をつけます.そして術中には,出血量,手術時間等,患者への総合的な侵襲を考慮し,どこまで摘出するかを決定しています.
また,画像診断は解像度に限界があるので,術前に認識できなかった小さな筋腫が術中に見つかります.たとえば,腹腔鏡下筋腫摘出術では,小さな漿膜下筋腫だけでなく,切開筋層断面に小さな筋層内筋腫がみつかることがあります.
同様に子宮鏡下筋腫摘出術では,小さな粘膜下筋腫だけでなく,摘出予定筋腫の摘出部に別の筋層内筋腫が見つかることがあります.これらのうち摘出が容易なものは摘出しますが,摘出困難なものと術前に認識できなかった小さな筋層内筋腫は必ず残ることになります.

 

腹腔鏡下腟式子宮全摘術

腹腔鏡の映像を見ながら手術し,筋腫ごと子宮を摘出し,腟から体外に取り出します.おなかをほとんど切らないので,痛みと癒着が少ないです.
従来から行なわれてきた腟式子宮全摘は,開腹手術に比べておなかに傷がなく,術後の痛みと癒着が少ないことが長所ですが,出産経験のない場合は腟が狭いので,腟からの手術が物理的に困難です.また,過去に帝王切開や筋腫摘出術などの開腹術を受けている場合は,おなかの中の癒着のためにやはり腟からの手術が困難になります.このため,これらの例では腟式ができず,開腹されることが多いのですが,子宮と卵巣の分離操作や癒着の処理を腹腔鏡を用いて行うと腟式手術が可能になります.