子宮鏡による子宮筋腫手術

子宮鏡治療

子宮筋腫の種類

下の写真は,紙粘土で作った子宮筋腫の模型です。丸い塊が子宮筋腫で,子宮を正面から見た断面で示しています。子宮筋層(子宮を構成している筋肉の層)は,血管が豊富なのでやや赤みを帯びていますが,子宮筋腫は血管が少なくクリーム色をしています。子宮の内側「子宮腔」は妊娠すれば胎児が育つスペースとして広がりますが,妊娠していない時は赤みを帯びた粘膜(子宮内膜)で内張りされています。粘膜下筋腫①は子宮筋層でなく子宮内膜で覆われているので,赤みのある色で塗っています。

子宮筋腫の種類 粘膜下筋腫,筋層内筋腫,漿膜下筋腫

 

子宮は筋肉の袋のようなもので,内側(子宮腔)は子宮内膜という粘膜に内張りされています.子宮内膜は,卵巣から分泌される女性ホルモンの働きで増殖・充血します。この状態の内膜に受精卵がくっつくことを着床と言い,これが妊娠の始まりです.
妊娠がなければ,子宮内膜は出血してはがれますが,これが生理です.
この子宮内膜があるところに発生した筋腫は,①粘膜下筋腫と呼ばれます.粘膜下筋腫は1㎝程度の小さなものでも,子宮内膜の面積が増加するので,生理の量が増え貧血になります.また,子宮内膜は受精卵を育て,子宮腔は胎児が育つ場所なので,粘膜下筋腫は妊娠の妨げになりますから,妊娠を望むなら摘出が必要です.
子宮の外側にコブのように発育する筋腫は②漿膜下筋腫と呼び,これは大きくなっても生理の量は増えません.
子宮の筋肉の中に発育した筋腫は③筋層内筋腫と呼びます.子宮筋腫のほとんどは筋層内筋腫として発生しますが,内向きに発育すれば粘膜下筋腫に近いものとなり,外向きに発育すれば漿膜下筋腫に近いものとなります.

子宮鏡手術は,おなかも子宮も傷つけずに子宮の内側から筋腫だけを削り取る手術です。

従来の筋腫手術は開腹でしたが,おなかをなるべく切らない内視鏡手術(腹腔鏡・子宮鏡)も可能になってきました.
開腹手術で筋腫を摘出する場合は子宮筋層を切開し,筋腫をはがし取り,切開した筋層は縫合しますが,この手術は「筋腫核出術」とも言います。
漿膜下筋腫の摘出は少しの切開と縫合ですみますが,粘膜下筋腫のように子宮内腔にある筋腫の場合は,子宮腔に入るまで子宮を大きく切る必要があります.開腹筋腫摘出術(核出術)では,子宮の傷が癒えるまで半年くらい妊娠を控え,出産時の陣痛で傷跡が裂ける子宮破裂を避けるため帝王切開が勧められます.腹腔鏡は,お腹の傷を小さくすまそうとする手術ですが,筋腫を取るためには筋層切開・縫合という開腹と同じ操作が必要になり,半年の待機と帝王切開は同じです.

粘膜下筋腫がある子宮腔は腟と続いているので,腟から入れる子宮鏡を用いれば,粘膜下筋腫なら,お腹も子宮筋層も傷つけずに摘出でき,手術翌日に退院できます.
子宮鏡では術後の待機期間は2~4か月程度で,帝王切開の必要もありません.
ただし,筋層内筋腫でも内腔に向かって隆起するタイプのものもあり,エコーでは粘膜下筋腫の正確な診断は困難なことが多く,MRIが必要です.


子宮鏡手術解説動画

 

筋腫だけ取る従来の手術は「子宮筋層を切り開いて筋腫を取り出し,切った筋層を縫い合わせて閉じる」という方法でした.腹腔鏡手術では,これを小さな傷で行ないますが,子宮筋層を切ったり縫ったりすることは開腹手術とまったく同じで,子宮筋層へのダメージがあります.
子宮鏡手術は,腟から子宮口を経由して入れた内視鏡で子宮の内側から筋腫を確認し,先端の電気メスで筋腫だけを削り取ります.子宮を切らないので手術の翌日に帰れて,数日で仕事も再開できます.
子宮鏡手術で取るのは粘膜下筋腫と粘膜下筋腫に近い筋層内筋腫です.また,子宮腺筋症も対象になる場合があります.漿膜下筋腫は子宮鏡では取れませんが,ほとんどの漿膜下筋腫は手術の必要のないものです。


NHK ためしてガッテン で,「子宮筋腫治療の最前線」として,当施設の子宮鏡手術が紹介されました。

子宮筋腫手術解説子宮筋腫摘出子宮鏡手術の写真

MRI画像と子宮鏡モニター画像を見ながらの内視鏡手術です。患者さんは全身麻酔で眠っています。

 

子宮鏡手術はどんな筋腫でもできる ?

対象となる筋腫は,基本的には粘膜下筋腫です.筋層内筋腫で子宮内腔に突出しているタイプも対象ですが,子宮内腔から離れている漿膜下筋腫は子宮鏡ではできません.大きさ,漿膜からの距離(正常筋層の厚さ)により難易度が変わり,手術可能かどうかは執刀医の経験と技術により決まります.
子宮内腔から離れている漿膜下筋腫は,よほど大きくない限りそもそも手術の必要はありません.子宮筋腫は良性腫瘍ですから,「大きい筋腫がある」というだけで手術しなければならないと言うのは間違いです.患者さん自身が堪えられない症状を自覚していて,他の方法では改善されない時に限って手術が選択されるべきです.
子宮鏡手術は子宮腔内へ突出した筋腫の切除術として行なわれ,おなかも子宮も切らない手術です。
粘膜下筋腫は生理の出血が増え,不妊・流産の原因になりますが,筋腫の多くは筋層内筋腫で,筋層内筋腫の多くは症状がないので摘出の必要がない場合が多いです。筋層内筋腫も子宮腔に突出すると粘膜下筋腫と同じ症状を起こしますが,子宮鏡での摘出難易度は粘膜下筋腫より高くなります。
粘膜下筋腫と子宮腔に突出した筋層内筋腫がなくなれば過多月経は改善します。
子宮鏡手術の難易度は,「筋腫の大きさ,子宮腔内への突出率,筋腫の位置,筋腫の数」などにより大きく変わり,経験のある医師は限られますが,一般的には4~5cm以下の粘膜下筋腫が対象とされ,摘出しようとした筋腫が完全摘出できていないこともあり,その場合は取り残し部分が再増大します。
このため,難易度の高い筋腫では執刀医が技術的に自信がない場合は,腹腔鏡や開腹手術をすることになります。

粘膜下筋腫または子宮内腔の変形をきたすような筋層内筋腫は,1cmくらいの小さなものでも,生理の量が増えたり,生理痛が強くなったりします.これらは,今までは核出術または子宮全摘しかないとされてきましたが,開腹または腹腔鏡で行われていた手術が,子宮鏡でできるようになれば痛みははるかに少なく,入院日数もすくなくてすみます.
従来は4-5cmまでの筋腫が限界と考えられてきましたが,術前に偽閉経療法を行い筋腫を縮小させれば10cm程度の大きなものでも可能になっています


子宮鏡手術で筋腫を取り 妊娠・出産できた例

子宮鏡手術後に出産した例のMRI画像

子宮鏡手術で筋腫を摘出した後に,妊娠・出産した患者さんのMRI画像(下腹部の縦断面。画面の右が背中側)です。
(a)は,10cmを超える筋層内筋腫で,他の病院で開腹手術を勧められていました。
(b)は,6cmの筋層内筋腫で,ほとんどが筋層に包まれ外側の筋層が筋腫に押されて薄くなっています。他の病院で子宮鏡手術は無理と言われていました。
(c)は,4cmの粘膜下筋腫ですが,他の病院では腹腔鏡手術を勧められていました。
他施設で撮られたMRI画像データがあれば、初診に先立ちメールでお答えします。 データはCD、USBメモリを送付するか、メールにファイル添付して下さい。相談は無料です。

 



子宮鏡手術は すぐに妊娠してもよい ? 帝王切開でなくてもよい ?

帝王切開は「一度メスが入った子宮は子宮破裂が起こりやすい」として次のお産も帝王切開を勧められることが多いのですが,筋腫摘出後も帝王切開が勧められます.筋腫摘出術では,筋層を縫い合わせた傷が治る過程で,子宮と膀胱,腹膜などが癒着することも問題になり,卵管との癒着が起これば不妊の原因にもなります.
最近では腹腔鏡でも筋腫摘出術を行いますが,「子宮を切る.縫い合わせる」という点では同じ問題を持っています.子宮鏡手術はこれらの問題がなく,生理が再開すればすぐに妊娠してもよく,原則として帝王切開の必要もありません


MEAと子宮鏡手術はどこが違う ?

MEAは、過多月経に対して保険で認められた手術「子宮鏡下子宮内膜焼灼術」のことですが、英語の Microwave Endometrial Ablation の頭文字を取りMEAと略され、「マイクロ波アブレーション」とも呼ばれています。
Microwave Endometrial Ablationを直訳すると、Microwave :マイクロ波、Endometrial :子宮内膜、Ablation :除去、切除、破壊 となります。マイクロ波とは電子レンジの加熱などに使われている、波長の短い電磁波のことです。子宮腔内にマイクロ波を発生させる装置を差し込み、「熱により子宮内膜を焼き潰して生理の出血が起こらないようにしよう」という治療です。
昔から行われてきた子宮内膜掻爬術は内膜の表面だけをかき取るだけなので、内膜がすぐに再生してきて過多月経の治療にはなりませんでしたが、MEAでは内膜の表面だけでなく、筋層まで届くくらいの熱を加えて内膜を壊死させ再生しないことをめざしています。なお,子宮鏡手術でも,筋腫を摘出する時に子宮内膜を全面切除することは可能なので,必要に応じてこれを行なっています。
内膜が再生しなければ生理の出血は起こりませんが、内膜は受精卵が着床し発育する場なので、妊娠を希望している人にはMEAは行えません。
過多月経の原因のほとんどか、粘膜下筋腫または子宮内腔に隆起した筋層内筋腫ですから、「保険適応が過多月経」ということは実際には子宮筋腫で行われることが多くなるようです。
MEAが適さないのは「子宮筋層が薄い場合,大きな筋腫,内腔拡張が強い場合」とされています。 子宮筋層が薄いと,MEAの熱が子宮の外側にある腸や膀胱にまで及び,これらに障害を与える可能性があるからです。卵管の近くは子宮筋層が薄いので,マイクロ波を強く当てることができません。
粘膜下筋腫または子宮内腔に隆起した筋層内筋腫があると,子宮腔が拡張します。拡張した子宮腔と隆起した子宮内膜は,すべて子宮内膜に覆われているため生理の出血が増えるのですが,この場合,子宮内腔が複雑な構造になり,マイクロ波による加熱は温度差のムラが生じます。このため,一部の内膜は壊死を免れ再増殖します。
マイクロ波が直接あたった筋腫の表面は壊死しますが,筋腫の中のほうや深いところなどまでは熱が及ばないので筋腫そのものは残ります。子宮鏡手術では症状の原因となっている筋腫の除去が可能で,その筋腫が取れれば再増大はありませんが,MEAでは筋腫そのものは取れず,一時的に生理の出血が減っても,また増えてくることがあるわけです。だから,MEAの保険適応疾患は「子宮筋腫」とはなっていないのです。
子宮筋腫の手術では摘出した腫瘍は必ず「病理組織検査」をして「子宮筋腫」であることを確認します。手術前に,子宮肉腫,子宮内膜癌などの子宮筋腫に類似した悪性腫瘍ではないということを,MRIや細胞診でチェックしますが100%完全には診断できないので,「確定診断」として病理組織検査をするわけです。
しかし,MEAでは熱による細胞の壊死のため病理組織検査ができないので,術前に診断できなかった悪性腫瘍があったとしても気付かれず,熱による壊死を免れた悪性細胞が生き残れば致命的なことになる可能性があります。
このように,MEAは子宮筋腫の治療法としては,子宮鏡手術に及ばないと思います。 マイクロ波発生装置は高価で、消耗品も子宮鏡手術に比べてかなり高額です。患者さんの身体的負担と経済的負担は子宮鏡手術と同等なので、子宮鏡手術との比較で長所はないのですが、あえて挙げれば、開発にあたった当事者がもらした「子宮鏡手術の技術が未熟な医師でも可能」ということでしょうか。

MEAが保険診療可能となった時点で,「切らない筋腫治療」のひとつの選択肢として、当施設でも導入を検討しましたが、「子宮鏡手術の技術があれば不用」と考え、導入は見送りました。


子宮鏡手術はなぜ普及していない ?

子宮鏡手術は保険で認められた手術ですが,開腹手術・腹腔鏡手術とは,まったく異なる手術ですので,書物やビデオで見ただけではできません.
子宮鏡手術は,小さな粘膜下筋腫または内膜ポリープを対象として始められました.特に子宮の内側にキノコ状に飛び出したタイプの粘膜下筋腫が取りやすいので,このような例が適応とされてきました.
ところが,このような例は数少ないので,このような例だけを適応としていると,大学病院などでさえ年間に10件程度しかないので,経験がない医師が多く、指導できる医師がほとんど育たず,なかなか普及しないのです。

高価なディスポ資材を多用し2~3週間の休業がいる腹腔鏡手術に比べ,子宮鏡手術は遥かに低侵襲かつ安価で入院を含めても数日の休業で済みます.切らない筋腫治療センターは,2010年開設以来,腹腔鏡下の筋腫摘出術と子宮全摘術を減らすべく,子宮鏡手術の安全確実な手法を工夫し適応を拡大してきました.その結果,他施設では子宮全摘や腹腔鏡下筋腫摘出をしている多数の例に行うことができるようになってきましたが,いまだに「小さな粘膜下筋腫にしかできない」と認識している医師が多く,研鑽に励む医師が増えず,多くの患者さんが開腹や腹腔鏡で手術されています.

当院の子宮鏡下筋腫摘出術の対象は,「過多月経・貧血,月経困難,不妊・不育を症状とする内腔隆起性筋腫(粘膜下筋腫と筋層内筋腫の一部)」であり,他施設なら開腹で(または腹腔鏡下に)筋腫摘出しているような例や,開腹でまたは腹腔鏡下に子宮全摘しているような多発・巨大例がほとんどです.開腹または腹腔鏡手術よりもはるかに低侵襲であり,入院期間が短期で,高額な医療資材を必要としませんから,この手術の適応拡大・普及が医療経済に貢献することは明らかです.多発例で,すべての筋腫が摘出できなくても,内腔隆起性筋腫が摘出されれば,「不妊・不育の改善が望める例では,開腹または腹腔鏡下筋腫摘出よりも子宮鏡手術が優先されるべき」と考え,同様に「過多月経・貧血,月経困難の改善が望める例では,子宮全摘よりも子宮鏡手術が優先されるべき」と考え,この手術の適応拡大に努めてきました.従来,過多月経・貧血,月経困難を症状とする内腔隆起性筋腫は,「挙児希望がない41歳以上なら子宮全摘」とされてきましたが,当院では,このような例に子宮鏡手術と腹腔鏡下子宮全摘を選択肢として提示していますが,ほとんどの患者さんは子宮鏡手術を選択します.実際,このような例は過去5年間に500例以上あり,計算上,子宮全摘の70%は子宮鏡手術に置き換えうると考えています.